DEMOCRACY STEPS

(c)1993-1997 Akio HIZUME

民主主義的階段
Democracy Steps
(c)日詰明男

●従来の階段はカリスマのオーダーメード
 従来の階段は段の奥行き(踏面)が一定の間隔のものばかりであった。特に公園や山道などの緩斜面の階段で、片方の足ばかりが疲れてイライラした経験が誰しもあることだろう。それは当然のことで、一定奥行きの階段は、いわば世界でたった一人選ばれた“カリスマ”の歩幅に会わせて誂えたようなものだからである。つまり大多数の人には合わないのである。

●黄金比を使った階段の効果
 そこで図のように2種類の奥行きからなる段を、黄金比に基づくシンコペーションに満ちたリズムパターンで作れば、すべての問題は解決する。
 つまりこの階段は、どんなに歩幅が長い人でも、短い人でも、右足と左足が平等に使われる、万人に快適な階段である。人は登り方を思い思いにデザインできる。
 これは「黄金比は最も有理数で近似しにくい無理数」という性質を最大限に活用したことによる効果である。

●医学的効果
 一般に「ストレス」とは、同一刺激が繰り返し繰り返し外部から押しつけられることに対する、生体の拒否反応と考えられる。
いわば「民主主義的階段」は筋肉レベルのストレスを解きほぐす構造になってる。
登って疲れるどころか、ある意味で登れば登るほど疲れがとれる階段と言うことが出来る。これが信じられない人は、激しいスポーツの終了時に行われる「整理体操」のはたらきを想像していただきたい。
 同様の効果が心理レベルでも言えて、この階段のリズムは、心理的ストレスを
解きほぐすように働き、おそらくまず第一に医療目的で使われるようになるだろうし、やがては未来の音楽の骨格となるだろう。フィボナッチ・ケチャックを参照。この音楽を楽しむことと、この階段を上り下りすることは同じ経験である。

●方法
 施工方法は基本的に従来の素材や工法をそのまま踏襲する。丸太でも石でもコンクリートでも何でもよい。特別に必要となる設備や細工は一切無い。ただ踏み面の幅を2種類にするだけである。
 2種類の幅の寸法とリズムパターンは、正確な敷地測量図があれば任意の傾斜に対して設計可能である。原理的には無限に長い階段を設計できる。この階段の効果は長ければ長いほど効果的である。
 今までと変わらぬ材料で、変わらぬ工法なのにもかかわらず、少し工夫すれば、ただの階段が最も前衛的な野外彫刻にもなるのである。
 これはやがて世界の階段の標準になるであろう。

●バリアフリーの一環として
 従来、公共施設などで、車椅子を使う人のために備え付けられている斜路は、登りの時は登り続けねばならず、下りの場合はブレーキをかけ続けねばならず、使用者にとっては苦痛かつ危険なものであった。
 「民主主義的階段」は車椅子用の斜路としても作ることが出来る。その場合、車椅子が加速度的に転がり落ちるのを防ぎ、斜路の途中でもブレーキをかけずに静止して休むことが出来る。
 なおかつ人は車輪から受け取るリズムを楽しむことが出来るだろう。
 「民主主義的階段」は、いわば「至る所が踊り場」である。体力の無い人でも休みながらゆっくり登ることが出来、特にそういう人にとって優しい階段である。
「これこそ民主主義である」というつもりはないが、従来よりは少し民主的である。民主主義は理想であり、絶えず追い求めて行くべきものであろう。

施工例
「民主主義的階段」(1995)埼玉県秩父郡吉田町
「Democracy Steps for the Cedar Falls」(1997) Hocking Hills, Ohio, U.S.A.

助成
国際交流基金
OHIO ARTS COUNCIL(U.S.A.)
GOVERNOR'S OFFICE FOR APPALACHIA(U.S.A.)
The Artist Organization(U.S.A.)

協力
埼玉県秩父郡吉田町
Dr. Edward and Ms. Betty Collings, Upper Arlington, Ohio, U.S.A.
THE INN AT CEDAR FALLS, U.S.A.

オハイオ州立公園Hocking HillsにあるCedar Fallsにアプローチする階段を全長100mにわたって、約100段建設した。

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