LOGIN
USER ID:
PASS:
Mode: ゲストモード
PROFILE
NEW ENTRIES
CATEGORIES
COMMENTS
SEARCH BOX

おそるべき子どもたち
by 日詰明男
G4G9の主催者であるTom Rodgers 邸は人の出入りが激しい。
背中にフラクタル図形の模様が描かれたTシャツを着た老数学者が子ども3人と大人の女性一人を連れてやってきた。
男の子のうち年長の2人は中学か高校生ぐらいの兄弟。
一番年下の子は、メガネをかけていてハリー・ポッターそっくり。
常に付き添っている女性は、その子の母親らしい。
その子は12歳になったばかりで名前をニールと言った。
僕は歳を聞いて二重に驚いた。
というのも、しゃべり方はほとんど大人だし、それに比して見た目は小学校3年生といわれても不思議はないからだ。

彼らは日がな一日、Tomの収集したパズルを解いたり、コンピューターでなにか図を描いたり、のんびり過ごしていた。
彼らと少し話をし、行動を観察するにつれ、だんだん彼らの正体が分かってきた。
これは数学に特化したきわめて少数先鋭の英才教育である。
彼らはおそらく公教育をはじめから受けていないに違いない。
老数学者は受験数学ではない数学を教える家庭教師あるいは共同研究者。
ニールは母親が教師だとも言った。

ニールは難解なパズルを次々と解いていく。
面白そうなので、彼らに僕の作った音楽プログラム「Real Kecak System」「Real Number Music」を見せてみる。案の定反応が良い。そしてどういう仕組みなのかと鋭い質問を浴びせかけてきた。
説明をしているうちにこれまた驚いたのだが、12歳のニールですら、連分数展開の概念をとっくのとうに理解しているという口ぶりだったのである。
僕は大学を卒業してやっと知ったというのに。
彼らはほとんど大学生、あるいは大学院生レベルの勉強をしているのかもしれない。

ニールは僕のプログラムを欲しいと言った。
残念ながら、コンピューターのOSが合わず、あげられなかったが。
その代わりStarcage#5のキットをあげた。
彼はとても喜んでくれた。

G4G9の会議にも全日程、彼らは出席していた。
すべての講演をさほど退屈そうでもなく聞きとおしていた。
年長の2人は、講演者として登録されており、五回対称や七回対称の複雑なフラクタル図形について300人の聴衆を前に臆することもなく堂々と発表していた。

ある日の夕食時、John Conway氏の前に立ち、サシで議論しているニールを目撃した。
数学の大御所と対等に渡り合う度胸。
末恐ろしいことである。

G4G会議は夕食時のアトラクションとしていつも第一級のマジックを見せてくれる。
あるマジシャンはニールを俎上にのせ、トランプを切らせたり、好きなカードを抜かせたりさせた。
懐疑心旺盛なニールは、そうおいそれとマジシャンの口車には乗らない。
ニールは笑顔でマジシャンの裏をかいて困らせていた。
マジシャンはもっと人を見る眼を持った方がいいだろう。

公教育を否定し、家庭で子どもを育てることは簡単ではない。
僕はアメリカの他の地方でそのような教育をしている家族に接したことがある。
その子どもたちも皆おそろしく大人びていた。
しかし、突出した才能やスキルに驚く反面、外の社会から隔絶されているというどうしようもない閉塞感を感じずにはいられなかった。
学校も多かれ少なかれ閉ざされた社会だから、そんなに変わらないといえば変わらないが。

ニールたちはその意味で、学校を超えていきなり世界へ開かれているという点で恵まれている。
現時点では、裕福でないとこんなことはできないのかもしれないが、ベーシック・インカムが実現すれば万人に可能だろう。
受験したり就職したりする必要がなくなるのだから。
望みとあらば幼年期から学者や芸術家を志せる。
学校に行かなくてものびのび学べる社会。
そんな社会=学校が実現して欲しい。


|| 13:10 | comments (x) | trackback (x) | ||
ルービック・キューブ次世代
by 日詰明男
9th Gathering for Martin Gardner(G4G9)初日の夜、メイン会場となるリッツ・カールトン・ホテルのレセプションは参加者でごったがえした。その日はレジストレーションをするだけなのだが、久々に会う人々と談笑したり、紹介しあったり、ミニパーティーの場と化していた。
新種のパズルを披露する人、大道芸的な手品をする人なども。
その中に懐かしいルービック・キューブを常にいじくりまわしている若者がいた。
手さばきは尋常な速さではない。
その若者はスタンフォード大学の学生だという。
ルービック・キューブが発売された1980年当時、私はその美しさに魅せられ、解かずにはいられなかった。
平均4分で解けるようになって、ちやほやされたものだが、程なく、萩本欽一も解いたという噂を耳にして、すっかりキューブ熱は冷めた。
そのことをうっかりその若者に話すと彼はキューブをくちゃくちゃとシャッフルし、私に渡す。
彼は他人がどう解くか興味があるという。
しょうがない、やってみるかと解きだすともう止まらない。
懐かしい感触。しかし私の頃より回転の滑らかさは飛躍的に向上している。
むしろすべりが良すぎるほどだ。
私が悪戦苦闘している間、彼は別のルービック・キューブを取り出し、他の人と談笑しながら涼しげな顔でカチャカチャと解いては壊しを繰り返していた。
私は酔いも手伝って、なかなか解けず、20分ほどかかってようやく完成。
腕も(脳も)衰えたものである。
ふうっーと大きくため息をついて彼にキューブを返した。
すると彼はまたカチャカチャとシャッフルして僕に渡した。
「もういい」と笑って断った。
思いがけずルービック・キューブを解く羽目になったため、夕食を食いそびれてしまった。
パズルの怖いところはこのようについ没頭してしまうこと。
私は以前パズルに夢中になったせいで、財布の入った鞄を置き引きされたことがある。

次の日、メイン会場のホテルのエレベーターに乗り込むと例のスタンフォード学生に会った。
やはりルービック・キューブを持っている。
彼にこう質問した。
「僕は4種類ほどの動作を使っているだけだけど君は何種類使っているの?」
学生は100種類と答えた。
彼のキューブを拝借してシャッフルし、今度は彼に解いてみてと頼む。
OKと軽く答えるが早いか、キューブを回し始める。
指先の動きが早くて見えない。
彼はエレベーターが地上階に着くまでに解きやがった。

その数日後、会議場でJerry Slocum氏のルービック・キューブ史に関する講演の後、その若者が演台に立った。
コンクールにも出場している現役選手のようである。
彼は解けるキューブと解けないキューブの色配置について語ったあと、実演に入った。
300人の面前で17秒で解いた。
次に彼は目隠しをして解くという。
数分間、キューブを観察した後、彼は目隠しをして解きはじめた。
何かを思い出すように手を止めてはまたシャカシャカと回す。
息を呑むような静寂が会場全体を包む。
どんな格闘技にも勝るはらはらどきどきである。
2分ぐらいかかったろうか、彼はついに解いた。
満場の喝采。
彼の名前はLucas Garronである。

眼の見えない人のためのルービック・キューブはあっていいと思う。
彼らのほうが早く解くかもしれない。
球面を裏返すトポロジカルな変換が盲目の数学者によって発見されたことは有名である。


|| 07:58 | comments (x) | trackback (x) | ||


CALENDAR
S M T W T F S
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31   
<<  2025 - 07  >>
ARCHIVES
OTHERS
    処理時間 0.027189秒
RECOMMEND ITEM

POWERED BY
POWERED BY
ぶろぐん
DESIGN BY
ゲットネット